奈良市在住のエッセイストである島田 彩さんは、家の94%を「toi」として開放して暮らしておられます。今回は、「toi」を訪れ、島田さんへのインタビューを通して印象に残ったことや、そこから得られた学びをお伝えします。
「問い」のある暮らし
島田さんは、生きる上で「問い」をとても大切にしていて、答えよりも大事なものだと考えているそうです。たとえば、ペンについている小さな突起を見て、「なぜ突起がついているのだろう。」と問いを立て、「ペンが転がっていかないようにするため」だという理由を知る。このように、些細なことでも、問いのある生活のほうが楽しいのだそう。
また、私はインタビューをする前、島田さんのプロフィールに書いてある、「得意技は愛すること」という言葉がとても気になっていました。ここで言う「愛する」とはどういうことなのだろう、と不思議に思っていましたが、この「愛する」ということも、「問い」や「知ること」から始まっているといいます。問いから理由をたくさん知れば知るほどに、そのものが愛おしく思えてくる。それが、「愛する」という島田さんの得意技なのだそうです。そして、島田さんのライティングの仕事では、いろいろな人の「愛」に触れることができてとても楽しい、ともおっしゃっていました。
「予期せぬこと」との出会い
島田さんが最近好きなことは、「遠回り」だそうです。島田さんは、最短ではなく、遠回りをして出会える「予期せぬこと」が好きなのだそうです。遠回りの例として、島田さんは、「普段なら数分で着く最寄り駅に、1時間かけて行くと決めてみる」ことを挙げていました。これを実践してみると、駅までの道中で、今まで知らなかったお店などの「予期せぬこと」に出会えて、新しい発見があり、とても楽しそうだと思いませんか。
また、島田さんの初めての就職先が決まったのも、「予期せぬこと」がきっかけだったといいます。大学生くらいの時、ある大会でプレゼンをする予定だったご友人が、都合が悪くなって出場できなくなってしまい、代わりに島田さんがプレゼンをしたそうです。そして、それをきっかけに島田さんは会社の方に声をかけてもらい、就職が決まったのだそう。
他にも、エッセイストになったことも、家を開放するようになったのも、すべて「たまたま」なのだそうです。そのような、「予期せぬこと」の連続で、今の島田さんがいるのだなと感じました。
相手を否定しない
対人関係において、島田さんは「相手を絶対に否定しない」ことを大切にされているそうです。相手のことを信じて、もし嘘をつかれたとしても、「嘘をついてまで守りたいものがあったんだな。」と思うようにしているといいます。そして、探るようなことはしないけれど、「背景」を知ることも大切にしているとおっしゃっていました。
「toi」に集まる人の多くは、学校や会社などに、何かしらの違和感を感じている方だそうです。そんな中で、たくさんの人が集まってくるのは、島田さんに心を開いている証拠です。島田さん自身がまず心を開き、その人を受け入れる、ネガティブなことも言わない、そんな硬さのない島田さんは、自分のことを「ぷにぷに」と表現されていました。
また、島田さんは「エッセイ」を「顕微鏡と望遠鏡とカメラを足して3で割ったもの」と表現されていました。エッセイは、自分や物事を、すごく近くから・すごく遠くから・角度を変えて、俯瞰して見られるものなのだといいます。そして家を開放すると、「顕微鏡」「望遠鏡」「カメラ」のようなツールが増えたような感じだとおっしゃっていました。これも、島田さんだからこその考え方なのだと感じました。
得られた学び
私は、普段の生活で、「問い」を立てることや、「遠回り」をする機会が少ないかもしれないな、と感じました。今の世の中では、「最短」や「効率」が意識されているように感じます。しかし、「問い」や「遠回り」などであふれている島田さんの暮らしは、とても豊かで楽しそうでした。そして私も、これからは日常で、それらのことを意識してみたいなと思いました。
また、私がとても衝撃を受けたのは、島田さんの「嘘」に対する考え方でした。普通、嘘をつかれると、怒りや失望などの感情が出てくることが多いと思います。しかし、嘘をついてまで守りたいものがあったのだ、と考えると、その嘘がよほどの嫌がらせなどでなければ、お互いに嫌な気持ちにならずに過ごせるなと思いました。このような島田さんの人柄の良さがあるからこそ、「toi」は成り立っているのだなと感じました。
今回、私は「toi」に伺うことができて、とても世界が広がったような気がしました。取材した島田さんだけでなく、「toi」に集まっている皆さん、そしてその空間自体がとても素敵でした。ぜひ、島田さんのエッセイや、「toi」についても触れてみてください!
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